生きていると何があるのか分からないもので本当に偶然、小さな勘違いが
重なって、英語の翻訳の仕事をすることになった。日本の機械のマニュアルを
外国のオペレーター用に英語にする仕事だ。20ページで行数にして1000行
ほど。それを、、、、土日またいでたったの3日で仕上げなければならない。。。
プロなら品質を維持する都合上絶対に引き受けないだろうこの作業を言葉の
行き違いと、怖いもの見たさ×子供心×予定の遅れで誤差が100倍ぐらいに
なり、素人の自分が、やらないと機械が納まらない状況に。
このあり得ないシチュエーションを打破するために慌てて買い込んだ辞書、
参考書4冊。まず、半日で斜めに概略を頭に入れる。どうやら、文学と違って、
簡潔に内容が伝わればそうとう省略した文法でも通用する(実用になると
いう程度の意味)らしい。これならなんとかなるし、同じような文章が何度も
出てくるのでちょっとほっとする。このくらいの機械のことは分かる。
好きこそものの上手なれだ。かつて東京の町工場に頼まれてスプリンクラー
のヘッドに106個穴を開ける自動機械のプログラミングをした経験が役にたつ。
あのときも初めて見た産業用のシーケンサーという機械のマニュアルを1日で
読んで1週間で作ったのだった。ドリルが8本も小さな部品に向かってうなりを
上げる恐ろしい機械だった。ドリルが前進して、後退するタイミングを間違うと
作ったばかりの機械が破損する可能性がある。試運転には脂汗がにじんだ。
今回も同じような状況だ。それにしても僕のような素人になぜ依頼する人が
いるのだろうか。日頃はおひな様や端午の節句のつり飾りなんかデザイン
している人間なのである。
朝5時から夜の11時まで、工業英語辞典と電子辞書を引きまくり日本語の
Word文章をはしから英語に直してゆく。普通の文章のように馬鹿丁寧な
英語にすると行数がどんどん伸びていくことが分かった。そういえばこの
日本語だってかなり省略してあるではないか。
日本語は理由をあれこれ述べてから、「だから~して下さい。」という順に
発想する。つまり、僕が考えるに、言い訳のようなことばを挙げ連ねている
間に相手に「だから気がついて下さいよ」を伝え続けるのだ。自分は
はっきりものを言わずに判断は相手がしても、同一の民族の間では物事が
スムースに進んだだろう。
それに対して英語は「こうしなさい。~理由はこうです。」の順。この語順が
正反対の文法はそこに住んでいる人間の考え方の違いなのだ。マニュアルの
ような作業手順を説明する文章なら英語を読んだ方がよっぽど分かりよいと
思う。「こうする~(理由)~次にこうする~(理由)・・・」詳しく理由など読まな
くても自分のすべき作業だけは分かる。もし、詳しく知りたい場合には読んで
ね。という、、つまりとても合理的なのだ。
こんなふうに、考え方の違う言語なので直訳は出来ないのだ。問題が起きない
程度に英語発想に変換した文章を書いてゆく。日本語と同じ発想順序では
英語にならないのだ。英文が合っているかどうかはネイティブスピーカーの
チェックを待つしかない。出来るだけ参考書の名詞を入れ替えただけで済む
ようにばたばた参考書をひっくり返す。素人が出来ることはほとんどそれしか
ない。
3日目の朝、一応 ガイダンス、フローチャート、エラー処理すべての項目の
英訳が終了。これを知人の英会話の先生を経由してカナダのオタワの友人に
送り、ネイティブに読んでもらって内容が分かるかどうかチェックする。
こちらは英語はネイティブだが機械のことがさっぱり分からない。下手に
「こういう意味じゃない?」と別の英語を差し出されたものをそのまま採用
すると、重大な解釈違いの論理エラーになる。当たり前だがあらためて
翻訳の難しさを実感した。それでも、全体に30カ所の文法間違いを正された
だけで何とか意味は通じたらしく、しばらく安堵のため息が止まらなくなった。
以前、コンピュータのプログラミングをしている友人が、自動エラーチェックを
始めたら、半日ぐらいプリンターから文法間違いがはき出され続けて止まら
なり、気が遠くなったと聞いたことがある。そんなことまで覚悟していたが、
なおす時間はとうにない。本当によかった。
内容はほとんど中学の文法で済んでしまっているし、あとは辞書があれば
なんとかネイティブにもわかり、こんなふうに実用になる英文が書けるのです。
これはすごいことだ。便利だから皆さん中学英語をポータブルスキルに
しましょう。
きっと、今頃はあのマニュアルは機械達と一緒に船で外国に旅立っている
ことだろうが、読んだ人(話によるとアジア系らしいが)がスムースに作業に
取りかかれるのを祈るばかりだ。
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